三人展「Forward Stroke ―明日への眼差し―」佐賀県立美術館 – 佐賀新聞

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<三人展>三者三様の表現空間

2018年10月02日 10時07分
<三人展>三者三様の表現空間
 精緻なペン画で世界を描き出す画家池田学さん(44)=米国・多久市出身、超絶技巧の細密文様とインスタレーションで独特の空気感を作り出す陶芸家葉山有樹さん(57)=武雄市山内町、コミュニケーションと体験に基づく作品で驚きを提供するメディア・アーティスト八谷和彦さん(52)=東京・佐賀市出身=による「三人展」。1室ごとに個展形式で展示した3人の作品や、その表現空間の魅力を紹介する。
  池田さんの展示は、代表作となった「誕生」を中心に、昨年の大型展をほうふつとさせる。「興亡史」「けもの隠れ」など大作からずらりと並ぶ動物画まで、再び「池田学の世界」を堪能できる。
 部屋奥に飾られた「誕生」は、アクリルパネル越しに近づいて鑑賞できる。3×4メートルの画面には、3年の制作期間の出来事、思いが凝縮する。その表現は池田さんの個人的なものだが、見られることで鑑賞者のものにもなる。作品の前でゆっくりと自分の解釈で解きほぐしてほしい。
 「誕生」に関しては、一部分を拡大して描くスピンオフ作品が佐賀初公開となる。「作品としての旅立ちはこれから」と語っていた池田さん。角度を変えて「誕生」の世界観を見せる。
 「プロペラの花」「がれきの花」は、東日本大震災の痕跡を再生への祈りに変える。米国で押しつぶされそうになった震災への無力感が、「自然と人間の共生」として昇華された作品でもある。「命の花」では、生と死が繰り返される普遍性を見る。命への深い思いが伝わるようだ。「誕生」上部を飛ぶ白抜きの「鶴」が色をつけて描かれるのも新鮮だ。
 もう一つの新作は動物画の一部。東京動物園協会の会報「どうぶつと動物園」の挿絵として描き、「リラックスして楽しんで描いている」と言う。「神の使い」とも言われる「アビシニアコロブス」の思慮深そうな顔、有明海でも飛び跳ねる「トビハゼ」の愛らしい目。純粋に動物の姿を描き込んだ、動物愛あふれる作品が並ぶ。
 「前回、ほとんど見られなかった人も多かったかと思う。今回はじっくりと作品に近づいて鑑賞してほしい」と呼びかける。また、次作への準備が着々と進む池田さんは、「葉山さん、八谷さんから刺激をたくさんもらいたい」と話している。
   陶芸家葉山有樹さん(57)の展示に通底するタイトルは「mutability-無常-」。常に移り変わる無常の先にある世界が、自然と共生する世界であるようにと祈りを込めた。作品は全てが初公開。
 一つ目の部屋のテーマは「普遍の願い」。白いタイルを約5000枚敷き詰めた部屋に、アラベスク調の文様をまとった直径約40センチの球体がぽっかりと浮かぶ。限界までそぎ落とした表現で、未来に吸い込まれていくような幻想すら起こさせる。
 白い世界を抜けると、一転さえざえと青い空間が広がる。踏み入れた足が止まる次の空間「有為転変」は、壁いっぱいに広がる圧倒的な世界観が見る者に迫り来る。直径約6メートル、高さ約2メートル40センチの円柱状の壁を、1080枚の青い陶板インスタレーションで埋めた。
 自らの欲による無秩序で滅びた人間の後悔、秩序だった変化を続ける自然界。妖精や小動物が四季に遊ぶ世界で、化石化した人間の造形が鮮烈な印象を残す。残り時間を刻むようにガラス漏斗から水が落ちる音とともに「今、未来を変える行動を」と訴える葉山さんのメッセージが胸に迫る。
 元になる陶板は、データを取るためだけに制作したという。葉山さんは「必ずしも純然たる焼き物を展示しなくとも、こういう表現もあるんだと陶芸表現の幅を感じてもらえたら」と話す。
 両脇の部屋は、風にそよぐ木々を望む展示空間。「未来への希望」と「過去からの遺産」を表現する、素朴なタッチの作品で、未来への望みを表した。
 葉山さんは、黒髪山を望むスタジオで制作をする。「こういう環境にいるから考えることができ、作れるものがある」として「力ある作品を作れば、活躍の場は世界に広がる。それはしっかり地に足をつけていないとできない」と、武雄の地を踏みしめる。
   ジブリ映画「風の谷のナウシカ」に登場する飛行装置・メーヴェが空を飛んだら―。メディア・アーティスト、八谷和彦さん(52)はメーヴェをモチーフに、カモメのような美しい翼をもつ「M―02J」を制作した。佐賀では初めての展示となる。
 メーヴェの実機を制作する「オープンスカイプロジェクト」は2003年から開始。メーヴェは方向を安定させる尾翼がない無尾翼機で「そもそも、飛ぶかどうかすら分からない形だった」という。
 アニメの世界を現実化するために、着実かつ地道な準備を積んできた。2分の1模型から始まり、たこ糸のようにゴムを付けて飛行するグライダー機、ジェットエンジンを積んだ機体「M―02J」を制作。自身でパイロットを務め、完成形となったM―02Jは230回ものテスト飛行を重ねた。航空局とのやりとり、パイロット訓練の一環でバランス感覚を養うためブラジルの格闘技を習得するなど地道な作業も一つ一つクリアしていった。
 初めて飛行が成功した時、隣で鳥が飛び、体全体で風を感じると「豊かな世界」が広がった。着実に準備したため「自転車に乗れた時みたいな感覚だった」という。今後は、関東や航空機の市場がある海外で飛行する姿を披露する予定だ。
 「視聴覚交換マシン」やクマがメールを運ぶソフト「ポストペット」などメディア・アーティストとして名をはせる八谷さん。制作の原点には東京にいた20代の頃、村上隆さん、ヤノベケンジさんなど現代美術家の個展に足しげく通ったことがある。「今を生きる人の作品はリアルで意味を感じ取りやすくて。現代美術に触れる環境があったのが良かった」という。
 三人展では、幅約10メートルになる「M―02J」の実物展示や、搭乗した感覚を映像とともに楽しめる模擬体験もできる。八谷さんは「皆さんに見てもらって初めて完成だと思う。『人間に不可能はない』ことを感じてもらえたら」と話す。

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