佐賀県書道展

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第29回佐賀県書道展によせて

審査委員長  明治生まれの祖母は躾に厳しい人でしたが、唯一、幼い時分の私を褒めてくれたことがあります。それは私が書く元気のよい字です。「こん子にはお習字ばさせたらよか」と、祖母は六歳になった私を書道塾に連れて行き、結局、二人で一緒にお稽古に通うことになりました。祖母は仮名、私は漢字を習い、段ボール箱に反故紙をためては、その高さを競ったものです。祖母は「梧竹さんが、梧竹さんが」と、近所のおじさんのことのように語るので、その名前にも慣れ親しみました。後に祖母は小城へ帰りますが、一緒に住んでいた頃の「お習字」と「梧竹さん」は自然と私の一部になりました。その後も書を続け、大学では梧竹と明治を研究テーマに選び、書道博物館に職を得たのも、決して偶然ではありません。そしてこの度、佐賀県書道展に関わることができる巡りあわせを、大変嬉しく思っています。

 コロナ禍で、世の中が一変しました。書の展覧会は次々に中止や延期となり、日々の成果を発表する機会そのものが失われてしまう事態に陥っています。スポーツも芸術も、目標の見えない中でコツコツと練習を続け、理想とする成果を出すのは至難の業です。しかしその経験は必ずや自らの糧となり、難局を乗り越える強さを身に着けることにつながるでしょう。継続は力なり。書においても、続けることの大切さ、そして続けられることのありがたさを、あらためて感じています。

 我らが梧竹さんは、「書の奥義」という文章でこんなことを書いています。
 

予は七十余年の間筆を執り、蘭亭序を臨すること幾百であるか、数知れぬが、何時でも自分で満足を感じたことがない、それで色々考へてみてはじめて書の奥深い意味を悟ることが出来たのである。

 かの書聖も、日々の練習を怠らず、どのような書が理想なのか思索を深めてゆきました。佐賀の会場で、みなさんの修練と創意のかたちを目にするのを心から楽しみにしています。

 

 
審査委員長 鍋島稲子
(台東区立書道博物館主任研究員 本年度審査委員長)