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第34回佐賀県書道展に寄せて
私が20代のころに憧れた中国の書画家の一人が、八大山人(1626~1705)です。
八大山人は本名を朱耷(しゅとう)といい、明の皇族の末裔でありながら、数え年19の時に明が滅亡してしまいます。
清が中国を支配するにあたり、服従の証として、漢民族の男性に、満州族の風習である弁髪を強制しました。頭髪を剃り、後頭部の髪だけを長く伸ばして編むこの髪型は、「髪を留める者は頭を留めず、頭を留める者は髪を留めず」という言葉に象徴されるように、抵抗者には死が与えられました。
生か死か、究極の選択を迫られた八大山人は、仏門に入り、僧として隠棲しました。しかし彼は、この悲劇的な生涯から生じる清への抵抗と苦悩を、生涯にわたって書画に託し、極めて高い芸術に昇華させた、清代初期の書画家です。
彼の書の最大の魅力は、省略された筆致に盛り込まれる、オーラのほとばしりにあります。何気ない運筆に、まるで内面からにじみ出る感情そのものが自然にあふれ出したかのような、自由奔放な書風を確立しました。
とりわけ、晩年の心境を映し出すかのような作風は、単なる技法を超え、深い孤独や悲しみ、あるいは諦観の境地を表現しています。一見無造作に見えるその筆跡には、綿密な計算と洗練された構成力が隠されています。八大山人の書は、彼の波乱に満ちた生涯と、その奥底に秘められた精神の叫びを、静かに語りかけてくるのです。
昨年に引き続き、第34回佐賀県書道展の審査のお手伝いをさせていただくことになりました。筆墨の特性を最大限に引き出した、見る者を強く引き付ける、深い魅力にあふれた応募作を期待しております。
審査委員長 富田淳
(九州国立博物館長)
(九州国立博物館長)


