佐賀県書道展

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線質、造形、余白の調和を  講評・島谷弘幸審査委員長(九州国立博物館長)

2020年05月18日 12時25分
線質、造形、余白の調和を  講評・島谷弘幸審査委員長(九州国立博物館長)
書には用と美が共存しているので、県書道展に出品するに際しても、まず書く言葉や文章を選び、どう表現をするかを考えることになる。そこで、規範となるのが中国と日本の古典であり、師を含む先人の作品であろう。

ところで、書く立場で書を見る場合と、鑑賞だけの場合では見方が異なるが、どう見るのも自由である。同様に比較できないが、フィギュアスケートを見る楽しみにも近似する。ジャンプだけ、ステップだけがよくても、そのつながりや流れが悪いと高い評価を得ることはできない。書の評価も同様である。この詩、この和歌、この言葉が好きであるといった内容からでもよい。もちろん、この線、この造形、この流れが気に入ったという芸術性な見方でからでもよい。その上で、最終的には線質、造形、余白などの調和が大切で、作品にまとまりがあるかどうかである。そこから筆者の個性や人間性までが見える場合がある。

今年も、皆さんの努力の結晶を見せていただいた。大賞は、少字数書部門の北村美弥子さんの「泉」を選んだ。墨色とにじみとかすれの妙で、湧き出るような泉を感じられた。押印の場所も見事で、造形の美しさと下部の余白の効果もあって、作品に奥行きを作り出すことに成功している。

準大賞は漢字部門から田中万沙代さんの「春夜」。これは黄色の料紙にメリハリのある筆線で書き進めており、疎密のバランスがとても美しい。落款の入れ方も巧みである。続いて、中島江春さんの「野泊」は粘りのある力強い線が魅力である。字間と行間の余白を美しく作り上げているので、抜群の安定感である。さらに、木下紫陽さんの行草を駆使して3段に配した「鮑恂詩」を選んだ。懐素の「自叙帖」を思わせると同時に、自らの書法を確立した素晴らしい作品である。かな部門からは藤松翠汀さんの横物の「霜枯」。厳しい冷え込みを表現するかのように抑え気味に始まり、中央に山場を作っている。何より、後半の静かに、そして行間を響かせたまとめが巧みである。調和体の森田瑞華さんの「一茶の句」は色紙5枚の連作。それぞれが単独でも作品になるが、巧みな散らしによって全体として収まりがよい作品に仕上げている。また、連綿を抑えて、空間による響きあう筆線のつながりが心地よい。

最後に、一般公募の森山南斗さんの「呉鎭詩」を県知事賞に選んだ。弾力を巧みに駆使したゆとりさえ感じる抜群の筆のさえを見せていた。
一般の方には自分の好みで、まずは楽しむことをお勧めしたい。

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